発達障害当事者が離婚をするときの消耗感。 綾屋紗月著「前略、離婚を決めました」の感想
(この記事は2013年12月3日に書いたものです。)
前の記事で、アルペルガー症候群当事者の綾屋紗月さんについて書きました。
今回読んだ「前略、離婚を決めました (よりみちパン!セ)」は、綾屋さんが二人のお子さんへ向けて書いたもので、お子さんに語りかけるような文章で書かれています。
このページの目次
綾屋さんの人とつながれない寂しさ
書き出しは綾屋さんの幼少期から始まり、子供たちのお父さん(綾屋さんの元夫)と出会い、結婚から離婚に至るまでの経緯が書かれているわけですが、タイトルが「前略、離婚を決めました」なので、離婚の話がメインかと思いきや、人と生まれつき感覚が違うがために、寂しい幼児期と学生時代を過ごした話にもかなりのページが割かれています。
綾屋さんは誰とも心がつながれず、ずっと寂しかったので、元夫と大学時代に出会えたことはとても感動的でうれしいことでした。
しかし、元夫と「心がつながれた」と思えたのは束の間のこと。元夫が大学を卒業し、就職したあたりから綾屋さんに冷たくなります。
元夫の心が離れたことを感じていたにも関わらず、元夫の転勤をきっかけに結婚、そして出産に至ります。
綾屋さんは二人の子供たちと「つながれている」感覚があることに感動し、家庭を大切にしようと心から思うわけですが、夫の酒乱による暴言、暴力、風俗通いという三重苦に苦しみます。
「家庭を大切にしたい」という強い思いがあったために、元夫との離婚を決意するには長い道のりがあり、離婚に辿りつくまでの綾屋さんの消耗感が切実に伝わってきます。
「DVとは何か?」を教えてくれた熊谷晋一郎さんという存在
離婚する前、綾屋さんは旧友の熊谷晋一郎さんに助けを求めるわけですが、熊谷さんはすぐに離婚を勧めることはせず、まず「DV」という概念について綾屋さんに伝えます。
綾屋さんは自分が夫にされてきたことが、「DV」にあたるのかどうか自問するわけですが、DVについての本を読み、次第に自分が受けてきたことはDVなんだと自覚していきます。
私だったら、綾屋さんの夫の仕打ちを聞いたら、「もう離婚しちゃいなよ」と安易に言いそうな気がしますが、熊谷さんが綾屋さんに少しずつ情報を与えていくところはさすがだと思いました。
綾屋さんの思考がぐちゃぐちゃと混乱しているときは、そのぐちゃぐちゃをほどいて整理していかなければならないし、与えるべき情報は一つずつ順番に、というのは熊谷さんの配慮ある対応なのかもしれません。
熊谷さんは綾屋さんの一番の理解者
熊谷晋一郎さんは綾屋さんの現在のパートナーですが、綾屋さんの一番の理解者であり、この二人が縁あって一緒にいることは素晴らしい奇跡のように思いました。
最終的に、離婚は万々歳で終わるわけではなく、元夫が定期的に子供たちに面会できることに、綾屋さんは納得がいっていないようです。
後半の方に、離婚までの流れがわかりやすく書かれていますが、DVに対して理解のない裁判官など、離婚手続きを進める過程でも、綾屋さんは苦しい思いをしてきたことがわかります。
苦しくても、綾屋さんの心が折れなかったのは、熊谷さんが存在があったからだと思います。
読むなら中学生以上
この本は発達障害に興味のある人が読むだけでなく、一般的な読み物として広く読まれるように書かれた本です。
子供が読める平易な文章で書かれていますが、性生活のことも書かれているので、子供が読むなら中学生以上かな、と思いました。
綾屋さんの夫との性生活について述べた悲しい文章があります。
するとお父さんは、「そう、じゃ遠慮なく」と言って、行為に及びました。
綾屋さんが本の後の方で「エッチ」という言葉を用いて、人と人がエッチな感覚になったりする過程とその意義について丁寧に書いており、夫との性生活について知った子供たちが、性的なことを嫌悪しないように配慮したことがうかがえます。
綾屋さんのお子さんたちは、この本を読んでどんな風に感じたのでしょう。
厳しいレビューが寄せられていましたが
私は本を読んだ後、「他の人はどう思ったのだろう?」とAmazonのレビューを見ることがよくあります。
「前略、離婚を決めました」のレビューも読みましたが、発達障害当事者の方からの厳しめのレビューがありました。
自分自身と向き合わず、恋人(後に夫)と向き合わず、他力本願的に結婚すれば幸せが待っている…的に結婚したらそうではなかった(あたりまえ)…
という言い訳の内容。
時間もお金も無駄でした。
私の娘も発達障害ですが、綾屋さんと症状が一緒ということもないし、発達障害といえども皆少しずつ違うものなのではないでしょうか。
綾屋さんをテレビで見た印象だと、人がたくさんいるところで具合が悪くなったり、視覚的な情報過多でも具合が悪くなったり、外出や人と会うことも大変そうな方のように思います。
私の娘も発達障害で感覚過敏などありますが、綾屋さんと比べると身体に負担が激しく出ているようにも見えません。
幼少期に人とつながりを持ちたいのにそれが叶わなかった綾屋さんですが、別に他力本願的に結婚したわけでもなく、私には「家庭を築いてみたかった」綾屋さんの気持ちは理解できます。
綾屋さんは発達障害の診断が大人になってからと遅かったので、「自分はなぜ人と大きく違うのか?」という根本的なこともわからなかったし、旦那さんになった人と、最初の出会いで会話や関係が成り立ったこともうれしかったのだと思います。
綾屋さんは出会いの最初からDVを受けていたわけではないし、最初はうまくいっていた人間関係がだんだんと変わっていって駄目になることは、誰にでもあることではないでしょうか。
当事者の方が自分と同じ障害の方の本を読むときは、自分とタイプが違うからといって批判するのではなく、「そういう人もいる」と思う寛容さも必要だと思います。
そして「自分とは違うからこの本はつまらない」、と思ったのなら、そっとその本を閉じてしまえばよいことだと思います。
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