ナチスからアスペルガー症候群の子供達を守ろうとしたハンス・アスペルガー
「自閉症とアスペルガー症候群」という本を読み終えました。
いろいろ深く考えされられる本でしたので、ここに思うところを書きたいと思います。
ナチスに奪われたたくさんの命
私は以前、ナチス・ドイツの「優生思想」によって、たくさんの障害者の命が奪われたことを題材にした演劇を見たことがあって、ナチス政権下で研究をしていたハンス・アスペルガーの歴史的な側面にも興味がありました。
1939年~1941年までに、約7万人の障がい者が「生きているに値しない命」として、命を奪われました。(T4作戦というそうです。)
精神病者や遺伝病などは、民族の血を劣化させることにつながるので、「劣等分子」として排除するべきであるという、ナチスの一貫した考え方が根底にありました。
上の画像は「一人の遺伝患者は60歳になるまで平均2マルクかかる」と書かれた当時を象徴するポスターです。
人の命をお金で換算しているような思想ですね。
ハンス・アスペルガーが救った子どもたち
ハンス・アスペルガーは、現在「アスペルガー症候群」と位置づけられているような子供たちを、当時の論文では「自閉的精神病質」と説明していました。
自らの研究対象だった「自閉的精神病質」の特徴のあるの子どもたちに対し、強い愛着を持っていたという遺族の証言があります。
アスペルガーの論文は、ナチスの民族優生政策へ抵触しないような配慮が最大限になされていることが覗えます。
「自閉的精神病質」が遺伝によるものだとすると、その当時では安楽死させられる危険性があるので、「自閉的精神病質」の遺伝についてはまだ解明できていないと述べつつ、「自閉的精神病質」の特徴を持つ子供たちの「自閉的知能」の素晴らしさを強調するような戦略を取ったのです。
遺伝についていえば、アスペルガーは長期的な調査によって 「自閉的精神病質」の子は何らかの遺伝的な特徴があると考えていたようですが、「遺伝と言っても、優秀な芸術家や科学者の家系によく見られる特徴」ということを強調することで安楽死を回避させようとしました。
創造的な「自閉的知能」を強調することによって、「社会にとって有益な存在」と解釈されるような記述もしています。
ハンス・アスペルガーは英雄か?
結果的には、アスペルガー症候群(自閉的精神病質)の子をナチスの迫害から守ることができたので、英雄のような側面も感じるかもしれません。
しかし、カナー型とも呼ばれる重度の自閉症の子供たちは命を奪われたのです。
アスペルガーの論文は、社会に有益な人間だけ残せばよいという逆説も導き出すこともできるので、尊い命を奪われた障がい者の遺族からすると腹立たしいものかもしれません。
障がいの程度が重かろうと軽かろうと、「生きているに値しない命」なんてこの世には存在しないのです。