NNNドキュメント「見える障害のあなた 見えない障害の私」を見て。綾屋紗月さんと熊谷晋一郎さんについて。
2019/01/26
(この記事は2013年11月25日に書いたものです。)
NNNドキュメント「見える障害のあなた 見えない障害の私」は10月にテレビで放送されました。
感想を書こうと思っていたのですが、番組に出ていた熊谷晋一郎さんと綾屋紗月さんの書籍を読み終わってからにしようと思って今になりました。
精神的に助け合う二人
綾屋さんはアスペルガー症候群と診断された女性で、二人のお子さんがいます。
一度の離婚を経験しており、離婚についての知識やアドバイスをしてくれたのが大学時代からの友人だった熊谷さん。
熊谷さんは、脳性マヒで、車椅子の生活をしています。
熊谷さんと綾屋さんは、大学時代の手話サークルで出会いましたが、より親しくなったのは綾屋さんが離婚を考えるようになってからのようです。
今、熊谷さんと綾屋さんはパートナーとして一緒に住んでおり、結婚はしていません。
脳性マヒで車椅子の人との生活を想像する限りでは、綾屋さんは熊谷さんの介助として存在しているようにも見えるかもしれませんが、この番組をよく見ると、綾屋さんにも困難なことがたくさんあり、熊谷さんと精神的に助け合っている様子がわかります。
「発達障害当事者研究―ゆっくりていねいにつながりたい 」という二人の共著を読むと、二人には、あえて保とうとしている「遠慮」の気持ちがあるようで、「綾屋さんとは介助契約を結んでいないので、介助をしてくれて当然、と期待をもつことは危険なものである」と述べています。
助けが必要な者どうし、お互いに寄りかかりすぎないようにしようという、自立した考え方があって、二人は結婚をしないのかな、と私は思いました。
結婚というのはある種の契約でもありますからね。
綾屋紗月さんの感覚を表す言葉
番組の中でも、著書の中でも、綾屋さんの「感覚飽和」という状態を説明していますが、この「感覚飽和」という言葉を考えた綾屋さんの文章センスに光るものを感じました。
今まで、発達障害の当事者の方の本というのは何冊か読んだことがありますが、綾屋さんの言葉を選ぶセンスの良さによって、今までにない読後感を得ることができました。
私の娘、さやも最近、外で話をするのが苦手になってきたのですが、ひょっとしたら綾屋さんのように、いろいろな感覚が一度に立ち上がりすぎて、どんな声でどんな大きさの音で、どんな言葉を選んで話してよいのかが、すぐにわからなくなっているのかな、とふと思いました。
大人の発達障害当事者の方の話を聞くことは、まだ言葉が拙い子供の発達障害の困難を読み解く上でとても有益なことだと思います。
綾屋さんの著書と出会えたことを、とてもうれしく思っています。
「綾屋紗月さん」という素敵なお名前は本名なのかな?という疑問もありますが、番組の中で、きれいなお声で歌を口ずさんでいるところも印象的で、とても存在感のある方です。(美人さんだと思います。)
綾屋さんだけが主人公ではない
NNNドキュメント「見える障害のあなた 見えない障害の私」の内容も、「発達障害当事者研究 」の本も、綾屋さんが主人公のようにも見えますが、熊谷晋一郎さんも、車椅子でありながら、親元を離れて東京大学に入り、一人暮らしをし、医師になるという、ドキュメンタリックな人生を歩んでいる人です。
熊谷さんは綾屋さんに起こるフラッシュバックなど、興味深そうに見つめているのですが、行動をまとめあげるのがゆっくりな綾屋さんを見守る熊谷さんの眼差しもあたたかく素敵です。
熊谷晋一郎さんと綾屋紗月さんの今後の活動に期待しています。
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