最新脳科学ミステリー“人間とは何だ”を見て。やる気を持続させるには?
(この記事は2014年2月13日に書いたものです。)
シリーズ化している「生命38億年スペシャル」ですが、今回は「最新脳科学ミステリー」というテーマで放映していました。
番組では、様々な側面から脳の働きについて紹介していましたが、私は一番気になったのは人の「やる気」についての脳科学的アプローチでした。
報酬の有無と「やる気」の関係
発達障害の子を持つ親としては、「やる気」という言葉で真っ先に連想するものはABA(応用行動分析)ですが、番組が「やる気」についての実験を紹介し出した最初の方を見て、「ABAってよくないのかな?」と一瞬思ってしまいました。
「やる気」についての実験では、10人の参加者に、ストップウォッチを5秒ちょうどで止める単調なゲームを30分間続けてやってもらいます。
このとき、10人を2組に分けます。一つは報酬のないグループで、もう一つは1回成功するごとに100円もらえるという報酬のあるグループです。
この実験の結果って、ある程度予測できますよね。
報酬のあるグループの方が「やる気」があるに決まっています。
実際、報酬のない方のグループは、ゲームの成功が平均175回であるのに対して、報酬のある方のグループは平均235回成功という結果となりました。
MRIの中に入って同様のゲームをやって脳の内部を映し出して分かったことは、報酬のあるグループの人は、線条体という依存や快楽の関係のある場所が活発になっているということでした。
玉川大学脳科学研究所の松元健二教授は、線条体で報酬を予測することが「やる気」につながると述べています。
しかし、問題となるのはここから先で、1回目に「報酬あり」でゲームをやったグループに、2回目の実験を「報酬なし」で行った場合、元々1回目も報酬がなかったグループは脳がほとんど変化しなかったのに対し、1回目で「報酬あり」だったグループは、脳に全く反応がなくなりました。
要するに、報酬を期待して出た「やる気」は、報酬をなくすと、元々あった小さな「やる気」すらなくなってしまうということです。
アンダーマイニング効果
この、報酬を期待して出た「やる気」が、報酬をなくすと、元々あった小さな「やる気」すらなくなってしまう現象は、「土台を削り取る」という意味のアンダーマイニング効果(undermining effect)というそうです。
やること自体が「楽しい」という自分の内から自然に出る動機(内発的動機)でやる行動が、報酬のためにやるという経験をすると、元々やる気があった課題に対しても、やる気が失われてしまうのだそうです。
番組のここまでの流れを見ると、ABAで強化子(好子)を与えることがよくないのかな、と思ってしまいますよね。
アンダーマイニング効果の話の後、番組では、「どうすればやる気が持続するのか」ということにアプローチします。
アンダーマイニング効果を持続させるには
「小さくても自発的なやる気」ということに注目すると、例えば仕事では、結果ではなく仕事そのものにやる気を見出すことが重要で、勉強でも、点数よりも学ぶ楽しさでやる気を見出すことで、やる気を安定的に長く持続できるのだそうです。
やる気を持続させる別の方法としては、「褒める」ということでした。
課題に対してお金を与えられたときの脳の反応と、「褒める」ことをした後の脳の反応をMRIで見てみると、同じ部分(線条体)が反応しました。
東京大学先端科学技術研究センター の渡邊克巳準教授は、褒められることを脳が報酬としてとらえていると述べています。
褒められるということは、お金や食べ物などの物理的報酬と同じように働くということでした。
ABA(応用行動分析学)における「褒める」ということ
ABA(応用行動分析学)で「褒める」という行為が報酬として機能することは既に言われていることなので、何を今さらという気もしますが、応用行動分析学で有名な奥田健次先生が「親は子供の褒められる部分を常に探すべし」といろいろな所でよく言っているのは、そういうことなんだな、と改めて再確認した感じです。
ABAで褒めるなり物理的報酬を与えるなりして良い行動を強化した後、報酬がなくても望ましい行動は持続することが多いのですが、それは多分、望ましい行動をすると、周囲の人との関係がよくなるので、良好な関係が築けて本人が過ごしやすくなるということが、「やる気」を持続させることにつながっているのではないでしょうか。
私の結論としては、アンダーマイニング効果という報酬でやる気がなくなってしまう現象は、ABAにおいてはそれほど気にしなくてよいかな、ということと、報酬は可能な限り「褒め言葉」の方がよいのかも、ということでした。
私も、子供に対して「褒め上手」な親になりたいと思います。
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